さて、ここまでは、「相手があなたの会社にふさわしい人であるか否かを、こちらの基準に従ってみてみよう」という話をしてきました。
しかし、社員の採用は一方的な事情だけではうまくいきません。
いざ採用して見たものの1年足らずで辞められてしまったのでは意味がありません。
入社して間もなく辞めてしまう理由は、従業員側が、「自分の思っていた会社ではなかった」と感じたことに起因します。
つまり、こちらはいい人を採用するために躍起になってその人となりを調べ上げたのに対し、相手にはこちらの情報を殆ど与えていなかったために、実際に入社してみたらギャップが生じてしまったということです。
こういうことが起きないように、会社側の内部事情もしっかりと教えなければなりません。
それは、ウェブサイトや会社案内に載っているような、通り一遍の情報ではありません。
そういうものであれば、応募者側で幾らでも調べることができます。
それは、こちらから教えなければ知ることができない情報のことで、実際にはどういう働き方になるのか、給料は幾らであるか、というような本音ベースのものです。
多くは応募者側にはネガティブな情報として受け取れるものですが、これを前もって話しておくか否かで、その後の定着率が変わってきます。
こちらから与えるべき情報には以下のようなものがあります。
これらの情報を相手に開示した上で、よく考えてもらい、返事をもらいましょう。
ここで開示する情報はもちろん正直に述べなければなりません。
あなたの感情など不要な情報も排除して、真実のみを淡々と述べてください。
ただし、相手にとってネガティブに映りすぎるような情報の場合には、なぜそうなっているのかという理由を話してもいいかもしれません。
とにかく入社してから「話と違う」「想像と違う」と思われないようにしましょう。
給料の話を、応募者側から切り出すというのは、よほどの自信がある人か、こちらがお願いしてきてもらうような人でなければ、あまりいいこととは考えられません。
日本の企業では、「お金は幾らでもいいから働かせてほしい」という人を、労働意欲のある人として、好む傾向にあります。
ですから、自分から給与額の話を切り出す人はあまりいないかもしれません。
しかし、だからといって、雇用側がその慣例にあぐらをかいてはいけません。
応募者が雇われた後に給与額を知り、思っていた額とあまりにも違うので不満に重い、辞められてしまったのでは、せっかくの社員募集も無駄になってしまいます。
必ず、「あなたに支払う給与額は○○位になります」と提示しましょう。
そして、それでもよければ入社してください、と話をしましょう。
嫌ならばこの時点で応募者側から断ってくるでしょう。
どこの会社でも忙しい時期と暇な時期があります。
そういう繁忙期と閑散期の差についても教えておかなければなりません。
まず、定時が何時から何時であるかを説明します。
次に、定時退社できる閑散期は、1年の中では何月頃で、繁忙期は何月頃になるのかを説明します。
更に、繁忙期は平均して何時間の残業があり、残業代はどの程度支払われるのか、繁忙期の業務方を改善する努力はしているのかといったことも説明しましょう。
もちろん、応募者が働くことになる部署に繁忙期がなければ説明は不要です。
また、人にっては、お金さえ出れば残業が苦にならない人いれば、家庭生活があるので残業はあまりできないという人もいます。
そういった事情についても、この説明と共に聞き出しておくと、配置するときの参考になったり、採否を判断する材料になったりします。
入社したらどのような仕事をしてもらうか、という話もしておかなければなりません。
そして、このときにした話は必ず守らなければなりません。
当初、企画部に配属すると聞いていたのに、入社したら営業部だった、ということになると、約束が違うのでモチベーションが下がってしまい、労働意欲が減退した状態で働くことになります。
一番最初の時点で不信感を与えてしまったら、その後会社にとって良い社員ではなくなるかもしれません。
折角採用したのにほどなくして辞めてしまうかもしれません。
入社したらどんな業務に就くのか、ということを全く知らせないのは問題です。
応募者にははっきりとやりたい職務があるかもしれません。
営業をしたい人もいれば、営業には向いていないので内勤を希望している人もいます。
どの部署に配属するのか約束できないのであれば、それも伝えておきましょう。
勤務地についても同様です。
もちろん、望みの部署に配属するからといっても、最初から重要な仕事を任せるわけではない、ということも、特に新卒であれば理解してもらう必要があるかもしれません。
福利厚生や休暇その他の様々な制度についての話です。
これは就業規則や、社内規定に書かれている内容です。
もちろんこういう書類は本人に渡しますが、渡すのは入社後になります。
後から本人がその就業規則を詳しく読み込んで、がっかりするようなことが書かれていたら、騙されたと思って辞めてしまうかもしれません。
そういう会社と従業員とのすれ違いをなくすために、予めどのような規則があるのか、どのような権利が保証されているのかを説明し、それで納得してもらえるかを確認しましょう。
もし納得してもらえないのであれば、就業規則は簡単に買えられるものではないので、どんなにいい人でも、その人の採用は見送ることになるでしょう。
就業規則や社内規定には書かれていないけれども、重要な情報として、会社の慣習があります。
注意しておきたいのは、慣習を説明するときには個人的な主観で話すのではなく、客観的に話すことです。
ある人にとってはそうだと思っていることでも別の人にとってはそうではないかもしれません。
感情的な善悪やポジティブ・ネガティブは抜きにして、事実のみを伝えるようにしましょう。
例えば、新人は朝一番にきて、全員の机の上を拭き、お茶をいれる慣習があるのであれば、それは伝えておきましょう。
その程度ならできると思えば入社するでしょうし、そんな前時代的な風習はごめんだと思えば、入社しないでしょう。
このような慣習を説明するためにも、配属する予定の部署の部長を説明時に同席させると良いでしょう。
組合の話は本来会社が口をはさむものではありません。
ですから、採用が決まった後に組合側から説明をしてもらうという形をとります。
しかし、組合の話は、入社してから聞かされたのでは遅い場合があります。
入社する前に、組合の有無や活動状況といった情報は与えておかないと、入社後のギャップを生み出す原因になる可能性があります。
入社する前に、組合のおよその情報を正直に教えて、相手の判断材料にしてもらいましょう。
例えば、組合には必ず加入することになるのか、選べるのかといったことです。
こういった情報は本来は経営側から説明するものではありませんが、入社前に知っておかなければならない重要な情報ですので、正式にというよりは、ここだけの話、といった感じのトーンで話してみましょう。
もちろん、説明の際には、組合を批判するようなネガティブな情報を与えてはいけません。
あくまでも真実のみを淡々と伝えましょう。
以上のように、入社前と入社後で、「話が違う」「想像していたものと違う」と思わせるようなギャップを生まないように、できるだけ多くの情報を与えましょう。
ギャップが少なければ少ないほど、「こんなはずではなかった」というショックがなくなります。
つまり、入社後ほどなくして辞める確率が減り、定着してもらえるようになる、ということです。
ここで与える情報は、客観的事実を淡々と述べただけだったとしても、相手の目にはネガティブな情報に映ってしまう可能性があります。
ですから、このような情報を開示することは、リスクでもあるのですが、隠しておく方がリスクが高くなるということは覚えておきましょう。